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マタハラ(マタニティハラスメント)について
マタニティハラスメント(Maternity Harassment)とは、職場において妊娠や出産者に対して行われる嫌がらせを指す言葉。俗称は、マタハラ。
妊娠・出産に伴う、女性の休業による労働制限によって業務上支障をきたすという理由で、精神的・肉体的な嫌がらせを行う行為のことを指す。
日本の社会では、男女の社会的に期待されている役割の違い「男性は働き家族を養い、女性は主婦として家事や育児をする」や、「育児休暇の取得は会社にとって不利益になる」という考えから、経営リスクを排除するために、結婚・妊娠・出産した女性を退職に追い込んだり、降格・減給の対象にしている雇用主も存在している。
「妊娠したから解雇」は違法
「妊娠や出産を理由とした解雇や降格などの不利益取り扱いについては、男女雇用機会均等法9条で禁じられています。また、労働基準法19条では産前産後休業期間中及びその後30日間の解雇は禁止されています。
違法なマタハラと評価された場合、企業は、被害者から損害賠償請求をされたり、社会的イメージが低下したりするといったリスクを負うことになります。」
出典 弁護士による労働問題Online
http://www.fukuoka-roumu.jp/2907/09995/
相談先
厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000088308.html
相談先:都道府県労働局雇用環境・均等部(室) 平成27年9月作成
リンク先のPDF 8ページ目に電話番号があります。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000135906.pdf
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マタニティハラスメントの経験者の割合
2013年5月 連合(日本労働組合総連合会)が行ったマタハラに関する意識調査の結果
インターネット調査(在職中の20~40代の女性626人が対象)
職場でマタハラをされた経験があるかという問いに対して、74.4%は「ない」と答えた。つまり、25.6%がマタハラを経験していて、これは連合が12年に行った調査での「セクハラされた経験」(17.0%)を大きく上回る。
「マタニティハラスメントを受けた経験がある」と回答した女性が25.6%に達し、そのうち5割近い人が「我慢した。人には相談しなかった」と答えていたこともわかった。
連合の調査によれば、「妊娠中や産休明けに心ない言葉を言われた」「妊娠・出産がきっかけで、解雇や契約打ち切り、自主退職への誘導などをされた」「妊娠を相談できる職場文化がなかった」「妊娠中・産休明けなどに、残業や重労働などを強いられた」と答えた人が、回答者の9.5%、7.6%、7.0%、4.7%に上っている。
出典 週刊ダイヤモンド、東洋経済 2013.5
http://diamond.jp/articles/-/36364
http://toyokeizai.net/articles/-/14065
2015年11月 厚生労働省が女性を対象に行った初の実態調査の結果
調査は、厚労省からの委託で労働政策研究・研修機構が9〜10月に、民間企業6500社で働く人など、就業経験のある25〜44歳の女性計約3万1000人を対象に実施した。このうち、現在や以前の職場で、マタハラを受けた経験があると回答した人は約3500人に上った。
妊娠や出産などの経験者で、マタハラを受けた割合を雇用形態別に見ると、派遣社員が48・7%と最も高く、2番目の正社員の21・8%を大きく上回った。
マタハラの内容(複数回答)では「迷惑」「辞めたら」などと言われた人が47・3%で最も多く、「雇い止め」や「解雇」も約20%に上った。
マタハラをしたのは「直属の男性上司」が最も多く19・1%。女性上司は11・1%。一方、同僚や部下では女性9・5%、男性5・4%と女性の方が多かった。
被害経験率
派遣社員 | 48.7% |
正社員 | 21.8% |
契約社員など | 13.3% |
パートタイマー | 5.8% |
育児休暇
育児休暇が制度として確立されてからの年数がまだ浅く、勤務する会社や職種によっては、育児休暇が取得しずらいなどの問題点も指摘されている。しかし、少子高齢化問題を背景として今後さらに取得を支援する流れが強まると予想される。
職場でマタハラが起きる原因 アンケート
「職場でマタハラが起きる原因」(複数回答)は、「男性社員の妊娠・出産への理解・協力不足」が67.3%と最も多く、「職場の業務過多・人員不足」が44.0%と続いた。
連合の担当者は「マタニティーハラスメントが社会問題化して認知度は高まったが、職場の理解は深まっていない」と指摘している。
出典 日本経済新聞 2015.9.15
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG15HBV_V10C15A9CR8000/
マタニティハラスメントの例
妊娠している人や出産に対する嫌がらせをはじめ、妊娠を理由にした自己都合による退職の強要や育児休暇の取得を認めない、妊娠を理由に業務の軽減依頼を行なったときに、「いやいや、ムリだよ」や「甘えるな」といった発言など、「男女雇用機会均等法」「労働基準法」「育児・介護休業法」によって守られているはずの出産・育児を虐げる行為全般がマタハラになる。
妊娠中のマタハラにより流産、死産してしまったというケースも存在する。
ジャーナリストの小林美希さんの著作『ルポ職場流産 雇用崩壊後の妊娠・出産・育児』(岩波書店)には、マタハラが原因で、女性が職場や出張先などで流産してしまった事例が紹介されている。
そのような人事制度の職場に在職を続けても仕事と育児の両立は不可能であるので、そのような人事制度の職場を見限って、自分や子供の利益を守るために退職・転職する事例も多数ある。
裁判、訴訟の例
by PRSA-NY
2014年 病院に勤める女性が、妊娠を理由に降格
2014年10月、広島市内の病院に勤める女性が、妊娠を理由に降格されたのは男女雇用機会均等法違反であるとして、勤務先の病院運営者に175万円の損害賠償を求めた裁判で、判決が言い渡された。
一審・二審ともに女性側の敗訴判決でしたが、最高裁判所は、女性側敗訴判決を破棄し、二審の広島高等裁判所に審理を差し戻しました(審理をやり直させること)。判決は、「明確な同意」や特段の事情がない限り、妊娠を理由とした降格は原則違法との基準を示したうえで、「女性が降格を承諾していたとはいえない」と指摘し、降格を正当化する業務上の必要性があったか否かを広島高等裁判所で改めて検討するよう求めています。
2015年11月17日、マタハラ降格に賠償命令、女性が逆転勝訴
広島市の病院に理学療法士として勤務していた女性が妊娠を理由に降格されたことが、男女雇用機会均等法に反するかが争われ、最高裁が違法と初判断した訴訟の差し戻し控訴審判決が17日、広島高裁であった。野々上友之裁判長は降格を適法とした一審・広島地裁判決を変更し、精神的苦痛による慰謝料も含めてほぼ請求通り約175万円の賠償を病院側に命じた。女性が逆転勝訴した。
2015年 出産・育休を機に契約社員になり雇い止めに
2015年 女性ユニオン東京と弁護団とともに厚生労働省内の記者クラブで提訴の記者会見
2015年10月、厚生労働省で1人の母親(34)が妊娠、出産、育休を機に職場で不当な扱いを受けたとして訴えた。女性は、都内で語学教室などを運営する会社で正社員として英語のコーチをしていた。
女性は上司とのやり取りをレコーダーに録音したものを公開。以下がその内容。
女性「保育園が見つかったので週5日正社員として、また復帰できればと思っているしだいです」
上司「産休明けだから、お子さんがいらっしゃるから、できるかぎり優遇するんですというようなルールは組み込まれていない」「復帰をされるとすると、他の社員の方と同じ働き方ができるということが条件なんですね。そこがしっかり担保できないと週5日の正社員としては無理ということで、その合意ができないから、今、週3日がある」
女性「いや、えーと・・・できるかぎり頑張ろうとは思っています」
上司「頑張ろうじゃないんだ」
上司「俺は彼女が妊娠したら、俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる」
訴状などによるとと、女性はおととしの出産後、育休を取得。娘を預ける保育園が見つからなかったことから、育休明けに契約社員に契約を変更した。会社側から事前に示されていた資料では、正社員への契約変更が前提と書かれていたということだが、その後、女性が正社員への復帰を求めても会社はこれに応じず、先月、契約が切れ、雇い止め(※)にあった。そして、会社に対し、正社員への復帰や慰謝料などを求めて東京地裁に提訴した。
※雇い止め … 期間の定めのある雇用契約において、雇用期間が満了したときに使用者が契約を更新せずに、労働者を辞めさせること。
出典 TBSニュース 2015.10.22
2018年 一審: 雇い止めを無効と判断し賃金や慰謝料の支払いを命じる
一審は、女性に正社員の地位は認めなかったが、雇止めは無効とし、会社の不誠実な対応などは不法行為にあたるとした。また、記者会見は名誉毀損にあたらないとした。
女性は2013年に出産し、育休を取得。保育園がみつからずに育休を6カ月延長したが、その後も子どもの預け先はみつからなかったという。そこで、会社に「本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提」と説明を受けたため、2014年9月1日に週3日勤務の契約社員となる労働契約を交わした。その翌日に女性は契約社員として職場に復帰したが、数日後に保育園がみつかったとして、正社員への復帰を希望。会社はこれに応じないまま、1年後に雇止めとなった。
一審の東京地裁は、女性が会社と締結した「契約社員雇用契約」は、正社員契約を解約し、新たな契約社員の雇用契約を締結する合意であるとした。また、「本人が希望すれば正社員に変更する」ことが条件の契約(停止条件付契約)を締結したとは認められないとした。さらに、当時の女性の状況から、ただちに女性に不利益な合意とまではいえないなどとし、妊娠・出産、育児休業等を理由とした解雇などの「不利益な取扱い」を禁止する均等法9条3項、育介法10条に違反しないとした。一方、雇止めは無効であり、会社の不誠実な対応などは不法行為にあたるとして、会社側に慰謝料100万円の支払いなどを命じた。
一審判決を受け、双方が控訴。
2019年 二審: 会社による雇い止めを無効とした1審の判決を取り消し女性の訴えを退けた
2審の判決で、東京高等裁判所の阿部潤裁判長は「雇用契約の説明や育児休業後の状況は、法律で禁止された不利益な取り扱いには当たらない」としたうえで、「女性はマスコミに事実と異なる内容を伝えマタハラ企業だという印象を与えようとしていて、女性を雇い止めにしたことには合理的な理由がある」として1審の判決を取り消した。さらに「記者会見の発言で会社の名誉を傷つけた」として女性に対しておよそ50万円の賠償を命じた。
女性は「このままでは時代に逆行してしまう。今後の方のためにも最高裁に進むことになると思う」と語った。判決について原告の女性は最高裁判所に上告する意向を示した。
出典 2019.11.28 NHK、弁護士ドットコム
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191128/k10012195041000.html
https://www.bengo4.com/c_3/n_10454/
原告女性の主張はなぜ、高裁で否定されたのか
判決文によると、「自己の要求が容れられない(受け入れられない)ことから、広く社会に報道されることを期待して、マスコミ関係者らに対し、客観的事実とは異なる事実を伝え、録音したデータを提供することによって、社会に対して一審被告がマタハラ企業であるとの印象を与えようと企図したものと言わざるを得ない」と評価が一変した。
高裁においては、次の証拠が重要視された。
①女性は、交渉の場で「見つかった」とされた保育園 に入園申し込みをしていなかった。また、保育園も複数申し込まず、熱心に預け先を探していなかった。
・正社員復帰のための交渉の場で「決まった」「見つかった」とされる保育園の名称は明かされずにいた。一審の終盤で保育園名が分かると会社側の弁護士は保育園運営会社に事実確認を行った。それで得た新証拠により、女性が保育園に入園申請していなかったことが判明した。
②業務時間内に作成した私的メールの内容に悪意が見られた。
③仕事中の執務室での録音行為や、マスコミ関係者への取材で発言した内容に問題があった。
・身を守るためだと容認された録音の内容のなかに、面談での「俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる」という上司の発言があった。女性が秘密に録音したものがマスコミに提供され、そのフレーズが切り取られて繰り返し報道された。二審は、発言そのものは適切ではないとしたうえで、「上司との一連のやりとりのなかで、一審原告が、その妻の件をわざわざ持ち出して質問したのに応じて、上司が自己の個人的見解を述べたもので、職場環境を害する違法なものとまではいえない」と結論づけた。女性の録音行為は、「自己にとって有利な会話があればそれを交渉材料とするために収集しようとしていたにすぎない」と判断した。
・提訴の記者会見が、女性は自身の氏名は匿名としながら、会社の名称は公開していたことに触れ、「契約社員になるか自主退職を迫られた」「労働組合に加入したところ、代表者が危険人物と発言した」「子どもを産んで戻ってきたら、人格を否定された」と発言したことも事実と異なるため、会社の名誉毀損になると認定され、女性に損害賠償金の支払いが命じられた。
出典 2019.12.4 AERA、2020.1 日本社会保険労務士法人
https://dot.asahi.com/wa/2019120400076.html
https://nsrh.jp/docs/202001_nsr_office.pdf